【ネタバレなし感想】実写「キングダム」すべての要素に心震える傑作 山﨑賢人&長澤まさみ&橋本じゅんの存在感

 とにかくすごいんだよ、この映画は。映画ライターの間でもかなり評判が良い。僕の耳にも、そこかしこから好評の声が聞こえてきていた。

「またまた、大げさに言っちゃって…。みんな金でも握らされてんの?」と疑いながら劇場に行った。どうせ「鋼の錬金術師」「BLEACH」みたいになってんだろ、話題にもならず塵と消えていく作品に違いねえ。そんなことをぶつくさつぶやきながら着席。そして2時間後。劇場をあとにした僕は、多くの映画ライターに「本当にすみませんでした」と心の中で土下座していた。

・脚本、美術、衣装、脚本…「キングダム」が最高の形で実写化

 めちゃめちゃすごい映画だったじゃねえか。

 まず美術がすごい。セットもロケーションも衣装もすごい。すべてが漫画からそのまま飛び出してきたようで、信&政が昌文君たちと合流する避暑地(山の民との交流のため築かれたあれ)や王宮など、背景に目を凝らすだけでも十分に楽しい。それほどのクオリティに驚かされた。

 製作費の大半は美術や衣装にかけられており、王宮のセットだけでも約1億円だそうだ。2時間全てのショットで隙間なく本気の美術が配置されており、「あ、これはキングダムとは違う」と思う瞬間がなかった。だから鑑賞している間、気持ちが冷め、映画離れることはひと時もなかった。「キングダム」が最高の形で実写化されている。そんな感動が、洪水のように胸に押し寄せてくるのだ。

 脚本も良い。それもそのはず、原作者の原泰久が参加しているからだ。ここがほかの実写化と大きく異なるところだ。原作の魂からぶれないためには、どうすればいい? 答えは簡単、原作者を脚本に巻き込んでしまえばいい。そういう妙手を的確に打つことが出来るあたり、プロデューサーの松橋真三&北島直明コンビの卓越した視点がよくわかる。ちなみに松橋は「銀魂」、北島は「ちはやふる」、2人一緒に「オオカミ少女と黒王子」「ママレード・ボーイ」などを手がけている。日本のメジャーな実写化には、ほとんどこの2人が関わっているといってもいい。

また原氏、佐藤信介監督、黒岩勉による脚本開発は、プロデューサー陣も加え多くの視点で練り上げられたもの。日本の現場では、多くの場合脚本家は1人であり、そこが非常に問題点になっている。脚本はどれだけのベテランでも「自分の脳内で補完されてしまって、他人が読んだらセリフや物語が破綻している」というミスに陥りやすく、複数人で整合性とバランスを取りながら進めないと、クソほど面白くない本が出来上がってしまう。ピクサーがシナリオ開発へ大量に人員を投入するのはそのためだ。基本3人体制だった「キングダム」は、そうした日本映画界の問題点にも回答を出している。

・キャストによる熱演は観客を異様なテンションへ誘う

 そしてキャストの熱量も半端ではなく、美術や衣装のディティールにけん引される形で役づくりに魂がこもる。ビジュアル面と精神面でハマり役の日本映画界屈指のキャスト陣が、本気で役づくりをして挑んでいるのだから、下手なことにはならない。「日本の俳優の力量なんてたかが知れてる」という声が聞こえてきそうだが、日本の俳優もそう悪いものではない。一部の下手な俳優や、人気先行のキャスティングが悪目立ちしているだけだ。

 現場で周囲を見渡せば、本気のキャスト陣しかいないわけで。キャストがキャストの熱に感化され、芝居にも熱がこもる。演じれば演じるほど、さらにディテールが詰まっていく。そうした影響が連続し、およそ相乗効果とも呼べぬ莫大なエネルギーのぶつかり合いにより、彼らの芝居には異様なテンションがみなぎっていく。それがスクリーン越しにもまざまざと感じられて、とにかく「“実写化”というジャンルの事件的傑作を目の当たりにしているんだ、俺たちは」とこちらも異様なテンションになってくるから不思議だ。

 信を演じる山崎賢人も良い。というか正直、山崎賢人はいつだって「良い」んだよ。「ジョジョの奇妙な冒険」も「斉木楠雄のΨ難」もなにもかも、彼は難しい要求に常に応えている。役の解釈を間違えず、心情に寄り添い、ちゃんと表現する。芝居の中身を見ず、イメージでダメ実写化の申し子的な扱いになってしまっているのはいささか可哀想だが、今作はその印象を払拭するにあまりある。

今作は、アクションにとにかく“気持ち”がのっていた。朱凶に振り下ろしたあの剣戟は、信の思いの全てを理解していないと不可能だ。一世一代のハマり役。映画comのインタビューで「生まれ変わり」とまで言われていたが、そのとおりだと思う。その一挙手一投足に不覚にも涙がこぼれそうになり、諸手を挙げて「良い!」とガッツポーズしてしまうほど、出色の出来だった。実写化作品限定の日本アカデミー賞があれば、主演男優賞は確実。あればの話だけど。

 ともあれ、製作会見で高嶋政宏が、目を血走らせて「キャスト全員、震えるほどの再現度」と言っていたことに嘘偽りはない。本当に震えるほどの再現度なのだ。

・長澤まさみと橋本じゅんの妖怪的存在感

 キャスト全員が良いんだが、あえて他に個人名を挙げると、楊端和役の長澤まさみと、ムタ役の橋本じゅんがめちゃめちゃ印象に残っている。長澤は仮面を取った瞬間の妖艶さにはゾクゾクさせられたし、ひとつも笑顔を見せないがこれが非常に美しい。いつもへらへら笑っているパブリックイメージは、実はその魅力のごく一部であったことを痛感させる。凛々しい長澤のほうが、圧倒的に素敵だ。

 そして橋本じゅんは、出演時間は短いが異常な存在感だった。ムタの妖怪的ビジュアルを内面にまで拡大し、まるで戦闘と死と妖気にとりつかれたイカレた親父として縦横無尽に跋扈する。竹林で信を追い詰めるさまはすさまじく、言っちゃ悪いが全く期待していなかったキャラだっただけに、その芝居プランの面白さが強く印象に残った。

後編もあります↓