「ボヘミアン・ラプソディ」ヒットの裏にあるものは? 「君の名は。」から出発する“熱狂の渦”(後編)

2019年5月9日

前編はこちら

 社会現象を巻き起こしている映画「ボヘミアン・ラプソディ」。そのヒットの要因を、過去のヒット作が観客動員をブーストさせた、という論拠から分析してみる記事、今回はその後編です。

■「ネタバレできない」という要素が大ヒットの鍵

 もうひとつ、「ネタバレ」という点から、本作のヒットを考えてみましょう。

この世で最も罪深い行為 ネタバレ

 今やある物事がヒットすると、口コミや報道によって加速度的に、かつ二次関数的に話題が生成・拡散されていきます。ここで重要なポイントは、恐らくネタバレをめぐる点でしょう。ネタバレする、しないということが、ヒットが継続するかどうかを決める世の中になってきています

 現在、多くの観客がSNSやテレビなどで映画情報を収集し、他人の感想をもとに映画館に行くかどうかを決定しています。感想の多くは配慮されていますが、同時にネタバレが氾濫していることも事実です。何の気なしにTwitterを眺めていると、まだ見ていないドラマの展開を解説するツイートが流れてきて、怒り狂ったことはないでしょうか。SNSだけでなくテレビなどでも頻繁に報じられる、あるいはPRされるため、現代は「見ていないのに見た気になっている」→「映画館にわざわざ行かなくていいや」という思考になりやすい環境だと言えます。

日本映画史でも類を見ない奇跡的ヒット作「カメ止め」

 そのなかにあって、前例をくつがえし事件的なヒットを記録した「君の名は。」「カメラを止めるな!」は、「ネタバレできないこと自体が『見たい欲』を刺激する」という構造を持つ作品でした。鑑賞済みの人は「とにかく見たほうがいい。すごいから」と勧め、未鑑賞者はとにかく見たいので劇場に足を運ぶ。“シックス・センス・パターン“とでも言いましょうか。これが口コミにおいて非常に強く、SNS時代と相まって、爆発的に話題が拡散され観客動員に直結していきました。

インフルエンサーのつぶやきも起爆剤に

 あと「カメラを止めるな!」については、SNS上のインフルエンサーが「300万円で製作されたインディーズ映画」ということを起点に感動し、話題を拡散していったように思えます。各メディアで連日「指原莉乃のツイートが起爆剤に」と報じられ、読者や視聴者が「もう指原の話はいいわ」と文句を垂れる場面を何度見たことか。

 他方で「ボヘミアン・ラプソディ」は、そもそもネタバレというものが意味を成しません。フレディの半生は超有名な“史実”ですし、目玉であるライブ・エイドのシーンは「百聞は一見にしかず」。ネタバレされたとしても、鑑賞意欲や、鑑賞時の面白さをまったく損なわない

 ちなみに「シン・ゴジラ」は、公開前に徹底して情報統制が行い、物語などほとんどを一切明らかにしないという、現代の映画宣伝では無謀とも言える奇手に打って出ました。しかしこれが「情報をもっと寄越せや」という観客の飢餓感を煽ることに繋がり、鑑賞欲求がブーストされたことで82.5億円の大ヒットとなりました。一方でネタバレされたとしても、早口セリフの応酬によるカタルシスやゴジラの迫力などに影響を与えません。そういう意味では、「君の名は。」と「ボヘミアン・ラプソディ」の中間ともいえる作品ですね。

 以上のことから、「ネタバレが過剰に氾濫する時代」において、「ネタバレできない作品」や「ネタバレされても影響がない作品」がヒットしやすい傾向にある、という仮説が成り立ちます。

 それをもとに、次にヒットするであろう作品をいくつか見つけてきましたので、以下にご紹介します。

次の社会現象的ヒット作はこれだ!

■「アクアマン」(2月8日公開)

人類未体験の海中バトル

 「ジャスティス・リーグ」にも参加したDCヒーローで、海洋生物を味方に戦う“アクアマン”の活躍を描きます。ヒゲモジャで上裸のおっさんが主人公と、日本ではまったくヒットする匂いがしないわけですが、「見ればわかる、すごい映画やん」となること必至です。”人類未体験”と称される水中でのバトルが、ガチのマジですごすぎる。あまりにもアツすぎるストーリー、あまりにもカタルシスに満ちたバトル、あまりにも美しい宝石のような海中の映像…。1秒たりとも、面白くないシーンがありません。

■「THE GUILTY ギルティ」(2月22日公開)

衝撃作が日本上陸

 第34回サンダンス映画祭で観客賞を受賞し、アメリカの辛口批評家サイト「Rotten Tomatoes」で満足度100%を達成したサスペンス・スリラー。緊急通報司令室のオペレーターが主人公で、「電話の音声だけをヒントに誘拐事件を解決する」という形で物語は進んでいきます。オペレーターのホルムは、1本の電話を受けます。それは、「今まさに誘拐されている」という女性からの電話でした。受話器から聞こえる息づかいや物音、車の発信音だけを手がかりに、果たしてホルムは女性を助けられるのか……。司令室のみで展開するなど、その手法は“衝撃的”の一言。物語のネタバレは一切できないので、ぜひ映画館に行き、心底驚いてください!

■「アンフレンデッド ダークウェブ」(3月1日公開)

恐怖再び

 全編パソコンの画面上で展開し、SNSを通じた恐怖が襲いかかる姿を描いた新感覚ホラー「アンフレンデッド」の続編。手に入れた中古のパソコンでソーシャルメディアにアクセスしたある男性が、以前の所有者と思われる「Norah」というアカウント名を、自分のアカウントに書き換えログインします。Skypeで友人らと談笑していたある日、PC内に監禁された女性を映した動画など、おぞましいファイルが保存されている隠しフォルダ発見。その瞬間、見知らぬアカウントから「俺のPCを返せ。さもないとお前たちは死ぬ」というメッセージが届き、恐怖の惨劇が幕を開けます。全編PC上で展開、というと、2018年に「search サーチ」がありましたね。現代の私たちは、ほとんどの時間をPCやスマホなど何らかの“スクリーン”を見て過ごしています。そんな時代にあって、本作のような構造を“スクリーンライフ映画”といいます。現代を象徴する、今見るべき1本です。

■「ウトヤ島、7月22日」(3月8日公開)

72分ワンカットでテロ事件を描く

 2011年7月22日にノルウェーで発生し、77人が殺害された無差別銃乱射事件を描いた映画です。特徴的なのは、銃撃事件が起こる72分間を、ワンカットで紡いでいる点です。主人公の少女が事件に巻き込まれ、次々と若者が犠牲になっていく……。少女が体験する恐怖の72分を、観客も同じように体験するのです。余計な音楽やナレーションもないため、まさに「事件現場に放り込まれたような」時間が流れます。鑑賞する最中、あなたは何を思うでしょうか。

■「アヴェンジャーズ エンドゲーム」(4月26日公開)

終わりの終わり

 ネタバレできない、というとこの作品が2019年で最もインパクトがあるのではないでしょうか。前作「インフィニティ・ウォー」の死ぬほど悲劇的な結末の後、アベンジャーズや地球はどうなってしまうのか? いかにしてサノスを打倒するのか? 塵となって消えてしまった人々はもとに戻るのか? 特報ではアントマンが鍵を握っているかのような表現がなされていましたが、物語の詳細は一切不明です。彼らの最後の戦いを見届けるまでは、死んでも死に切れません。